カテゴリー「ウィスキー」の3件の記事

2007年9月 3日 (月)

ニッカの余市シングルカスクと、10年

Yoichi0 思いがけずニッカの余市蒸留所からシングルカスクの5年が届いた。引越しをするたびに住所変更の連絡はきちんとしていたりしたので、決して忘れていたわけではないのだが、いつ来るかはわからなかったので、やっぱり「思いがけず」ということになった。

これは、ニッカが提供している十年浪漫倶楽部のサービスの一環だ。詳しくはホームページを見てほしいのだが、申し込むと、その年の決まった時期から樽詰めを開始して、5年後に1本、10年後に2本、熟成したウィスキーを送ってくれる。気のながい、しかしそれだけの期間じっくり楽めるちょっと素敵なサービスだ。


 

就職したら、結婚したら、子供ができたら――ひとによってさまざまなきっかけでスタートするのだろうが、ぼくの場合、じつはそんな特別な理由はない。ただ夜中にホームページでこのサービスを見つけて、眠っている女房を叩き起こし、朦朧とする彼女の了解(?)をとりつけたのだ。

10年....というのは、つまり過去であれば「ひとむかし」として回想するくらい充分に長い時間だ。はじめようという動機は単純だったけれど、実際に申し込むときには、その10年を想わずにはいられなかった。子供のこと、仕事のこと。はずかしながら、そのどちらも想像を超えていた。結婚して、やがて子供ができて、という世代は、だいたい仕事のうえでもいわゆる働き盛りで忙しく、あわただしい。それでもしっかり自分の将来を見据えている方もおられるだろうが、ぼくはただがむしゃらに「生活」していくだけで精一杯だったし、それはいまもそうだ。今回、その半分である5年がすぎて1本が送り届けられたわけだけれど、あれから5年しかたっていないなんて、とても信じられない。べつの時代の話のようだ。

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1本しかない関係上、貧乏性が顔を出すことになり簡単には開封できなかった。そのかわり、といってはなんだが、手許にあったべつの余市のシングルカスクをひさしぶりに飲んでみた。

余市蒸溜所のシングルモルトは、偉そうなことをいうようだけれど、どこに出しても自慢できる上品で豊かな風味と、それを敢えて崩すような粗野な個性をあわせ持っている。それが愛すべき味わいを生み出している。余市と双璧をなすサントリーの山崎は、すばらしくバランスのとれた優等生であり、それがサントリーの技術だなと感心する。ぼくは山崎もだいすきだ。でも、余市を飲むとき、豊饒な香りと甘みを感じつつも、喉の奥でほろ苦さが自己主張して、それが懐かしい土の感触を思い起こさせる。

スペイサイドでも、アイラでもなく、これはまちがいなく日本のシングルモルトウィスキーだ。たぶん、ぼくはいま「いちばん好きなウィスキーは」と訊かれたら、「ニッカの余市」と応えるだろう。

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Yoich05 むかし、縁があって、数年のあいだ月2,3回というペースで関西から北海道に通っていたことがあった。そのころは、ウィスキーは好きでも残念ながら日本のウィスキーを敬愛できるほど見識を積んでおらず、余市を訪問することなど思いもしなかった。いっぽうこの余市蒸溜所のサービスを申し込んでからは逆になかなか行く機会がなく、北海道には何度か行きはするものの、あわただしくて蒸留所に立ち寄る時間など得られなかった。

それが2年ほどまえ、ようやく札幌で5時間ほど空き時間を得ることができた。その日は、打合せだけでなく、現場作業があったのだ。夕方4時には打合せが終わり、夜の9時から現場での作業を開始、というスケジュールだった。

Yoich09打合せが終わると、さっそく小樽を経由して余市に向かった。小樽から乗り換えのローカル線はなかなか本数がなく、やきもきしながらなんとか夕方5時には蒸留所に入ることができた。試飲のコーナーなどは残念ながら5時で閉まっていたけれど、受付けで十年浪漫倶楽部の会員であることを伝えると、「ぼくの樽」が熟成されている貯蔵庫まで案内をしてくれた。暗い貯蔵庫にならんだ樽からひとつを探し出し、案内の女性が懐中電灯の明かりをかざしてくれた。たしかにネームプレートにぼくの名前があった。たったそれだけのことだけど、初対面の樽にすこし感激した。いま、5年熟成のボトルを見ながら、あの薄汚れた樽のなかにこんなに美しいお酒が入っていたのだな、と思う。

Yoich12その日は、そのあと蒸留所のなかをひと通り散策して、製造工程の説明を見て、所内に漂うピートの香りを楽しんで6時の閉所までの時間を過ごした。帰りは小樽で途中下車。何度か行ったことのあるカウンターだけの小さな寿司屋に入り、ぼたん海老とカニ汁を堪能した。くどくど書かないけれど、どちらもほんとうに絶品だ。夜の8時半には札幌近郊の現場にもどり、 夜明けまで働いて、そのまま早朝の便で羽田にもどった(当時は横浜に住んでいた)。へとへとだったが、思い出深い、ひさしぶりに楽しい出張だった。

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10年のうち、半分の5年がすぎた。必然的に、これからの5年間を想うことになる....これまでの5年間は、大きく変わったこともあれば、ほとんど変わらなかったこともある。いや、やっぱり変わったことのほうが多いか....。転勤も含めて、当時は想像もしなかった大イベントもあった。けれど、まあがんばっただけのことはあった5年間だった。これからの5年間もけっして楽なものではないということは充分想像できるが、家庭も、仕事も、なんとかうまく舵取りができれば、と思う。

40代サラリーマンのぼくは、どうやらそのくらいのことしか望んでいないようだ。あとは、すこしずついいから、音楽や本、そしてウィスキーを楽しむことができれば、いまはそれでいい。

 

Annotations :
ニッカ シングルモルト余市10年 :
シングルカスクは高いのだが、シングルモルトであればまずまずの値段で、充分に余市の良さを味わえる。ぼくもふだんはこれを飲む。超おすすめ。
Link : 楽天 河内屋でニッカ 余市10年を見る
ニッカのサイトとシングルカスク :
ニッカウヰスキー株式会社はいまはアサヒビールのグループ会社になっていて、アサヒビールのショッピングサイトでシングルカスク余市を購入することができる。シングルカスクの商品は、蒸溜所か、このショッピングサイトでしか購入できない。シングルカスク は限定品で、すぐ品切れになるのでご注意。
Link : ニッカウヰスキー株式会社のサイト
Link : シングルカスク(アサヒビールのショッピングサイト)

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2007年8月14日 (火)

バルヴェニー(BALVENIE) ダブルウッド

Balvenie 前回紹介したボウモアとならんで、このバルヴェニー(BALVENIE)もサントリー取り扱いのブランド (ボウモアは資本もサントリー傘下)。これはシングルモルトのなかのスペイサイドモルトだ。

以前、10年もののボトルを購入したことがある。正直なところ、とくに強い印象を残したというわけではなかった。スペイサイド特有のさらっとした爽やかな飲み口で、あっというまに空けてしまってもう残っておらず、ひさしぶりのバルヴェニーだ。


今回、12年のダブルウッドを買ったのは、いつものお店でいつものお酒を買うときに、たまたま目にとめて、ある人のことを思い出したからだ。「ある人」とは言っても、有名人でもなんでもない。丸の内に勤めた時代に、着任直後で右も左もわからず硬くなっていたぼくに、わかりやすく「怪しいこと」を吹き込んでくれ、それから3年間、年齢的にははるかに若造のぼくに、なにかと構ってくれた大先輩である。いまでもぼくが東京に出張した際には、ぼくの顔を見つけると30分の "バーめぐり" に連れていってくれる(連れていかれる)。そこでウィスキーを数杯飲んで、あれやこれやと情報交換をして、最終の飛行機で、あわただしく関西に帰ることになる。関西から "東京もうで" をされている同胞の諸氏はよくご存知のとおり、大阪空港に着く飛行機は、大阪側の発着時間制限のため、羽田を発つ最終便が意外と早いのだ。

その人はずっと、響やオールドパーのスーペリア、バランタインの30年といった、ブレンデッドウィスキー(の最高峰)を好まれていた。どれもよくごちそうになった。そのなかから「どれがいい」と訊かれるのだが、どれにしても最高の贅沢なので、ふだんあまりブレンデッドを飲まないぼくとしても、選ぶのに嬉々として迷ったものだ。

それが、ある日から突然、その人は、シングルモルトであるバルヴェニーのダブルウッドに切り替わっていた。バルヴェニーというと、上で書いたように10年を飲んだ経験から、さして強い印象も持っていなかったぼくにはすこし意外な気もしたが、完全なる調和のとれたブレンデッドウィスキーの世界から、いささか粗野であったとしても "素材の味" を堪能できるシングルモルトに回帰するのはわかるような気がしたし、その落ち着く先としてバルヴェニーというのは、そのバランスのとれた味わいを思うと、なるほどと思った。

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そのときはそう納得したのだが、いざこうして12年 "ダブルウッド" を手に入れて、落ち着いて味わってみると10年とはだいぶ印象がちがう。

ダブルウッドはその名のとおり、二種類の樽で熟成させたウィスキーであり、最初はバーボン樽で、そのあとシェリー樽で熟成される。バーボン樽のやわらかくも深い味わいと、シェリー樽の華やかな味わいが、独特の、深いコクを感じさせる複雑な世界を作っている。この深みが、10年の持つ "明るいさわやかさ" とは決定的にちがっている。

10年と同様の親しみやすさを保ちつつも、12年の "ダブルウッド" は気高さ――高貴な気配も感じさせる。ダブルウッドというと、どこか奇をてらったようなキワモノ感がさきに立ってしまうのだが、これはウィスキーの名作のひとつだと思う。

 

Annotations :
バルヴェニー ダブルウッド : BALVENIE DOUBLEWOOD
Link : 楽天 河内屋でバルヴェニー ダブルウッドを見る
スペイサイド : SPEYSIDE
広くはイギリス、ハイランドの一部。スペイ川河畔の地域。蒸溜所がたくさんあって、とくにハイランドと区別して呼ばれる。
Google Maps : バルヴェニーのある Dufftown の場所を見る
ブレンデッドウィスキー :
一般的なウィスキー。大麦由来のモルトと、穀物(トウモロコシ)由来のグレーンをブレンドさせて作られる。本文中でも触れたように、シングルモルトは素材の味を楽しみ、ブレンデッドは料理の味を楽しむ、というような理解でいいと思う。
本文中で触れた代表的なブレンデッドウィスキーには以下のようなものがある。ただしいずれもかなり高級品デス。
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2007年8月 5日 (日)

ボウモア(BOWMORE) 新ボトル

Bowmore7ボウモアのボトルが新しくなった。

ここしばらくボウモアはSURFやLEGEND、DAWNといったペットネームを付加した商品展開になっていて、正直なところ選ぶのが面倒くさいというか、よくわからない状態になっていたのだが、ここにきて、またシンプルに熟成年数だけの表示になったので、買ってみた。

新しいボトルは、すこし肩が張って、すっきりスリムに見えるデザイン。悪くない。最近マッカランもスリムで背の高いボトルに変わったようだし、これからこういう形が流行っていくのかもしれない。


一時期、アイラモルトの代表格としてボウモアをよく飲んでいたのだが、上に書いたような事情もあって、ここしばらくはラフロイグやアードベッグを飲むことが多かった。今回、ひさしぶりのボウモアだなと思っていたら、さっき物置部屋から古いデザインのボウモアが1本、新品で出てきた(右下の写真)。いつ買ったのか、まったく記憶にないな...。さてどっちから飲むべきだろう?

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BowmoreOldボウモアが好きか嫌いかという以前に、そもそもウィスキーが好きか嫌いか、アイラモルトが好きか嫌いかというところで話が決まってしまいがちだが、ボウモアはその名称の無骨さからくる印象に反して、比較的マイルドだと思う。そう説得されたひとがためしに口許にグラスをあてると、まずはピート臭とヨード臭(これらはちがうらしいが簡単には区別がつかない)が襲い、ほぼ全員が自動的に正露丸を連想して顔をしかめる。本当は正露丸とはちがうにおいなのだが...。

アイラモルトというのは、英国アイラ島に蒸溜所があって、そこで作られるシングルモルトウィスキーを総称してそう呼ぶ。つづりが Islay なので、一部では "アイレイ" と表記している人もいるが、カタカナでは "アイラ" と書くのが正しいようだ。ほかに、アイラ島には上でも挙げたラフロイグ、アードベッグ、ラガヴーリン、カリラなどの蒸溜所がある。おなじ島モノでは、ほかにスカイ島やアラン島などのモルトもあり、これらを総称してアイランズモルトとも呼ぶが、長くなるのでその話はまたこんど。

アイラモルトの名刺代わりのともいえるこの強烈なピート臭・ヨード臭は、この島で採取されるピート(泥炭)に多くの海草由来のヨウ素が含まれていることから生まれると聞いた。以前、仕事のあいまにあわただしく北海道余市のニッカの蒸溜所を訪問した際には、蒸溜所全体にほんのりとこの独特のピート臭が漂っていた。余市蒸溜所ではピートをどこで採取しているのか、説明があったように思うがもう忘れてしまった。道内だったが海岸沿いではなかったような気がする。ニッカのモルトウィスキーもすこし無骨な香りがしてとてもおいしいし、それについて書き出したらまたきりがないけれど、すくなくともアイラ島のウィスキーほど強烈ではない。それはピート臭が強くてもヨード臭はそれほどでもない、ということなのかもしれない。

ピートは、発芽した大麦――麦芽(モルト)を乾燥させるときの燃料として使われる。ピートの煙で燻されて、モルトにあの強烈な香りが染みこむのだ。

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アイラモルトについては、最後まであのピート臭・ヨード臭がだめなひともいるようだが、慣れてくるとあまり気にならなくなる――というか、すくなくとも強烈とは感じなくなり、愛すべき香りにかわる。「そんなにまでして慣れたくないよ」というひとももちろんいるし、ぼくも無理には勧めない。でもこの香り、この味わいを楽しめるようになったら、それは一生ものの楽しみになる。と思う。だから、いろんなお酒の味、香りがわかってきたら、最初は興味半分、格好半分でもいいから、何回か試してみたらいい。その入門用としては、いきなりラフロイグやアードベックはちょっときついから、やっぱりボウモアがやわらかくてお勧めだ。

でも、はじめてウィスキー、はじめてシングルモルト、ということなら、やっぱりアイラモルトではなくて、スペイサイドのモルトからスタートしたほうがいいような気はする。スペイサイドモルトの話は、またいつかべつの機会に。

 

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ボウモア : BOWMORE
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アードベッグ : ARDBEG
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ラフロイグ : LAPHROAIG
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マッカラン : MACALLAN (これはスペイサイドモルト)
Link : 楽天 河内屋でマッカラン12年を見る
アイラ島 : Islay Island
Google Maps : ボウモア蒸溜所
スペイサイド : SPEYSIDE
広くはイギリス、ハイランドの一部。スペイ川河畔の地域。蒸溜所がたくさんあって、とくにハイランドと区別して呼ばれる。アイランズモルトとはまたちがったすばらしいウィスキーがたくさんある。ぼくも大好き。
Google Maps : スペイサイドはだいたいこのへん(グレンリベット蒸溜所)
シングルモルト : Single Malt
一種類のモルトだけで構成されたウィスキー。ピュアモルトは複数種類のモルトで構成。シングルカスクはひとつの樽だけの、いわゆる原酒。

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