音源とパッケージとダウンロード
リマスターの話ばかりで恐縮だが、Emerson, Lake & Palmer の “Brain Salad Surgery” の発売40周年記念のリマスター盤を買った (これには『恐怖の頭脳改革』という邦題がついているが、LP時代から輸入盤を買っていたのでどうもこの邦題には馴染めない…)。
さまざまな理由で近年有名な “Tarkus” よりも、個人的にはこの “Brain Salad Surgery” のほうがはるかに好きだ. さきほどLP時代からと言ったけれど、その後、CDの通常版、2001年のリマスター盤、そして今回の2014年リマスター盤で、もう買うのも4回めになる. もちろんWALKMANにも入っているし、TuneBrowserの開発でパワーが必要なときなど、いまでもよく聴いている.
さて、ここでは、この “Brain Salad Surgery” の内容について書こうとしているのではない. 有名なアルバムなので、もういまさらぼくが書くべきこともない。リマスターの内容、質についても書かない。書きたかったのは、収容しているメディアの話だ。
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今回のリマスターを買ってみようと思ったのは、3枚組のうち1枚がDVD Audioになっていることが目を惹いたからだった (DVD Audio形式、あるいはSACDでの発売は過去すでに行われていたようだが、不勉強でそれは知らなかった)。
ではよほどDVD Audioに期待していたんだね、と言われると、でもじつのところはぼんやりした興味があっただけで、そう期待が高いわけでもなかったのだ。
事前のリリース情報によると、DVD Audioには96kHz/24bitの音源が収容されているという。それは良い。それは良いのだが、例の著作権法改正以降、DVD Audioはなんとなく気の晴れない、どんよりとした、さえないメディアという印象になってしまった。たぶん、買ってはみたものの、PCかAVシステムのほうで一回聴いたら、それでオクラ入りになるんだろうな――そう思っていた。
ところが、実際にパッケージが届いてみると、嬉しい驚きがあった。DVD Audioには、その本来のフォーマットであるMLPのほかに、96kHz/24bitのFLAC形式が収録されていて、それをそのまま――コピープロテクトを回避するような行為をすることなく――Windows標準のエクスプローラでPCにコピーでき、通常の音源として再生できるのだ。
実際にこの音源をTuneBrowserで鳴らしているうちに、ぼくは俄然機嫌が良くなった。やはりいまどきの音源の企画はこうでないと(^o^)。CDをリッピングするよりも遥かに楽であり、高音質。 “いまどき” に買い替えた価値があろうというものだ。Sony Music、すばらしい。
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すべての音源が、こういう形で発売されたらいいのに。と思う。
先日、ベルリン・フィルが独自レーベル “ベルリン・フィル・レコーディングス” を立ち上げると発表した。物理的なパッケージには所有することの満足感が得られるような魅力を与え、本来の商品である音源としては、CD, Blu-ray Audio/Videoといった各種メディア以外に、192kHz/24bit音源のダウンロード権もつけるという。
最初のリリースはラトルによるシューマンの交響曲全集。現地で約€50, 日本では約9千円前後。値段の話で品がなく申しわけないが、最近の音源価格の感覚からすると、決して安くはない。安くはないが、物理的なパッケージの大切さと、音源の自由度を重視した企画、心意気 (そして、レーベルとしてのはじめてのリリースにシューマンをもってくるという凄さ(^^;) に共感して、迷わず予約した。
ここで大切なのは、あくまでもパッケージも含めた総合的な商品企画の勝利だということだ。ぼくはたぶん、ダウンロード音源だけだったらシューマンの交響曲4曲に9千円は出さないだろう。これがWarnerからCD品質でリリースされたらおそらく輸入盤で千円台であり、そちらを買う。高解像度の音源であればオーディオ的興味もあるからそれがうれしいに決まっているものの、日常で楽しむ音楽としてはCD品質でも充分に充足は得られる。その天秤になる。
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いっぽう、音源のダウンロード販売は、ここ数年でDRMつきからDRMなしに転換するという大きな飛躍があって、使い勝手そのものは大変よくなってきた(それに比べると電子書籍は…とつい言ってしまう)。
それでも、正直なところ――すくなくともいまのぼくにとっては――多くのダウンロード販売のサービスはあまり魅力が感じられず、お試しで買ってみる、という以上のところにはなっていない。結局、ずいぶんむかし(2007年)にフィラデルフィア管弦楽団のダウンロード販売について書いたとき以降、魅力的なサービスには巡りあえていないような気がする (フィラデルフィア管弦楽団による独自のサービス提供は現在はすでに終了していて、販売チャネルをiTunes StoreやHD Tracksに移しているようだ)。
たまたま、今回はパッケージメディアで、これはと思わせる企画を見つけることができた。物理メディアに縛られないダウンロード販売にはダウンロード販売の魅力が出せるはずだから、これは買おうと思わせるサービス/商品がぜひとも出てきてほしいし、それを楽しみにできると信じたい。