TEACの DSD 再生可能な DAC, UD-501
ひさしぶりにオーディオ機器に変化があった。 TEACのDAC (DAコンバータ)、 UD-501を購入したのだ。
これまで使用していたDACは、以前ご報告したとおり、英国CHORDのDAC64 mk2。気がつけば、導入からずいぶんと時間が経った。このDAC64は当初から192kHzのサンプルレートに対応しているなど、いまでも充分に通用するスペックを誇っているから、あまり古くなった気がしない。音も全面的に気に入っている。
なのに、新しいDACを導入した理由はふたつ――ひとつは、使い勝手をもうすこし改善したいと思っていたこと。そしてもうひとつは、最近流行りだした、ハードウェアでのDSD再生を試してみたかったのだ。
「使い勝手」の部分というのは、これも以前にも書いた、たとえばサンプルレートが切り替わったときのDAC64のポップノイズ。自作のPC再生環境では、周波数が切り替わったときに自動的にアンプをミュートする、などの工夫はしていたのだが、やはりそれも無理矢理感は否めない。
そしてDSD。ここ1,2年のDSDの思いがけない勃興は、本当に目覚ましい。ぼくもご多分に漏れず、この1年のあいだにDSDを88.2kHzのPCMに変換する形の再生環境を整えていた。音源の価格、容量、あるいは使い勝手の面で、今後DSDがメインストリームになっていくとは思えない部分もあるが、せっかく素晴らしいフォーマットなのだから、これを楽しまない手はない。
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選んだのはTEACのUD-501だった。決め手は、2基のトロイダルトランスによる「しっかりとした電源」と「頑丈な筐体」であるということ。Goldmundの例を見るまでもなくオーディオ機器の真髄は、電源と制振――と外観――に決まっている(笑)。そして、日本メーカ製であること。価格。
日本メーカ製である点は、CHORDでの不満だった使い勝手の面での不満解消を期待してのことだった。それはおおむね期待どおりだった。DSDの再生時には、PCMからの切り替えかどうかに関係なく、ごく小さく「プツ」というノイズが聞こえる。気にしていれば聞こえるが、気にしていなければ聞こえない、という程度の小さなノイズだ。念のためTEACに問い合わせてみたところ、TEACでもその現象は確認しており、その上で「これがもう限界」とのことだった。それはそれで納得した。PCMでサンプルレートを変更しても、DSDに変更しても、さらにPCMに変更したとしても、その極小さな「プツ」以外は不快な音を出すこともなく、まったく安定している (再生はすべて、foobar2000と自作ソフトでASIO 2.1を使用)。これは立派なことだ。さすがである。
価格は…この時期に、デジタル機器、とくにDACを購入するというのは、むずかしい決断だ。これからしばらくは、時間がたつにつれ、より魅力的な製品、すぐれた性能の機器が登場してくるに違いない。実際、購入にあたっては、たとえば MYTEK DIGITAL のStereo192-DSD DACや、購入当時はまだ発売されていなかったもののLuxmanのDA-06、あるいはCHORDの製品群など、あれこれと悩んだ。もちろんそこには、本来DACの心臓部と言える、DACチップの構成もかかわってくる。結局このUD-501を選んだのは、上に書いたように、オーディオの基本と思っている電源と筐体がしっかりしていること、そしてなによりも、それほど深刻にならなくても買える――すくなくともスピーカーのB&W 802Dなどに比べれば――価格だったということも大きい。
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じつはUD-501は、昨年の11月2日にはもうぼくのところに届いていた。11月上旬発売と言われていたから、いわゆる初期ロットなのだと思う。
A4サイズのそこそこ扱いやすい大きさと、デジタル機器としては異例のずっしりとした重量。太いケーブルを使っても、ケーブル負けすることがない(笑)。デザインは…「すばらしい」とは言わないが、悪くはない。パネルの質感は、カタログ写真よりも実物のほうが良い。ツマミも見た目はまずまず、ただし実際にさわってみた感触は、いかにも中空です、という軽さが感じられるのは残念。価格から考えると、これは致し方のないところなのだろう。電源のトグルスイッチは意外と感触が良くて気に入った。両サイドのパネルはアルミ製で、制振にひと役買っているのだと思うが、まるでラックマウント機器のパロディのように、ハンドルが前面に飛び出ているのは、どうも理解に苦しむ。
動作は、すでに書いたように、きわめて安定している。前面に有機ELディスプレイがあるので、どのモードで動作しているかひと目でわかる。本体やPCの設定をいじっていて、うっかりちがうモードで動作していた、なんていうこともない。PCMもDSDも簡単にフィルタの特性を変更することができ、さらにPCMはアップサンプリングも行える。遊べる要素には事欠かない。
肝心の音質は――繊細で透明感のある、高解像度の美しい音である。定位も明快だ。アバドが若いモーツァルト管弦楽団と演奏した、モーツァルトの交響曲集などを再生すると、その鮮明な音にハッとする。
使いはじめてしばらくは、詰まったような感じがしたものの、鳴らしつづけたことで、すっきりと抜けて感じられるようになった。また、最初は「詰まった感じ」を払拭したくてPCMをアップサンプリングして聴いていたが、いまは、すこし尖った感じを出したくて、アップサンプリングなしに設定している。
UD-501の音色は、DAC64で気に入っていた骨太で弾力感のある音色――一部ではそれは時代遅れとも言われている――とはちがうものだ。今回のUD-501の購入で、ひょっとしたらDAC64は引退かとも思っていたが、この音色が捨てられず、いまも現役でUD-501のとなりにいる。だが結局、ふだんはUD-501ばかり聴いている。休日の昼間、大音量で鳴らしても、2基のトロイダルトランスのおかげか音はがっしりとしており、低域には芯が感じられる。世界観のちがうDAC64と比較をしなければ、UD-501はほぼ不満のない音だ。これで実売8万円~9万円というのは、お買い得だと思う。
そしてDSDは、世間で言われている通り、PCMに比べると、音はよりしなやかになる。余韻やホールトーンがふわっと感じられるようになり、それは奥行き感にもつながる。もちろん解像度は落ちない。とても気持ちが良い。
残念ながら、去年の10月から、著作権法の改正によってSACDからのリッピングは、たとえそれが私的なものであったとしても、非常に厳しいものになってしまった。こうなると、こうしたPC+DACで高音質の音楽を楽しむための頼りは、もはやSACDというパッケージメディアではなく、ダウンロード販売ということになる。法の狙いとは逆のいささか本末転倒のような気もするが、法は法なのでいまは仕方がない。
ノルウェイの “2L” というレーベルでは、すばらしいことに、同一音源をテスト用にDSD, FLAC(PCM)などの各種フォーマットでダウンロードできるようにしてくれている (そしてもちろん、ダウンロード販売もしている)。オーディオの趣味用としてこうした活動は本当にありがたいが、音楽を聴く趣味として、もっとふつうに、簡単に、幅広く高音質の音楽を楽しめるようにならないものか、と思わずにいられない。
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コメント
iPhoneにはもうDSDをダイレクトに再生できるアプリがありますよ!
https://itunes.apple.com/jp/app/dsd-1/id592396897?mt=8
投稿: A2c | 2013年3月18日 (月) 22時41分