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2013年2月の3件の記事

2013年2月24日 (日)

クラシック音楽と PCオーディオと タグ データ (その2)

TB2

前回、大量――数千,数万ファイル――の音源データのなかから「自分が聴きたそうな音楽」を探し出すのは意外と難しく、アルバム(CD)の単位にこだわるのをやめて、各楽曲のタグを整理し、そのタグをもとに音源を検索できるようにしないと、もう無理。という話をした。

そのタグも、一般的なARTISTとかTITLEだけではまにあわず、いくつかのタグを自分で「これを使う」と決めて、すこし広げて使っている。そのタグの話。


大切なタグ

前回書いた、自分にとって大切になってきたタグは、以下のようなものだった ([] 内の英語は、FLACでのタグ(メタデータ)の名称)。

  • 検索するときに大切なタグ (ほぼ必須)
    • 作曲家 [COMPOSER]
    • 演奏家 [PERFORMER]
    • アルバム名 [ALBUM]
    • 楽曲名 [CONTENT GROUP]
      (...決して [TITLE]ではない)
    • ジャンル [GENRE]
      (...これも複数必要! )
  • 楽曲を管理するときに大切なタグ (あれば良い)
    検索に使用するタグに加えて、
    • レーベル [ORGANIZATION]
    • 録音日 [DATE]
    • リリース日 [RELEASETIME]
    • 入手した日 [PURCHASEDATE]/[ENCODINGTIME]等々...
    • 版 [EDITION]
    • 作品番号 [OPUS]
      (たまに、ある作曲家について作品番号順に並べたくなる(笑))

楽曲名(CONTENT GROUP)は、TITLEとはちがう、と書いた。TITLEとは、 CD上のひとつのトラック/PC上のひとつのファイルにつく、題名のことである。前回の例での『展覧会の絵』の場合、最初の3トラックのTITLEは以下のようになっている。

  1. 組曲 ≪展覧会の絵≫: 1. プロムナード
  2. 組曲 ≪展覧会の絵≫: 2. グノーム
  3. 組曲 ≪展覧会の絵≫: 3. プロムナード

この場合、聴きたい/探したいのは『組曲 ≪展覧会の絵≫: 1. プロムナード』ではなくて、あくまでも『組曲 ≪展覧会の絵≫』という楽曲である。チェリビダッケの録音を一覧したとき、知りたいのは『組曲 ≪展覧会の絵≫』があるかどうかであり、全部で15トラックある個々のTITLEについて知りたいわけではない。

それで、CONTENT GROUP を使うようになった。これはMP3などのID3v2ではTIT1に相当する(TITLEはID3v2ではTIT2)。実際には、いちいち入力するのは面倒なので、TITLEを解析して区切り文字からCONTENT GROUPを自動抽出するツールを援用している (だから、もちろんTITLETITLEで、きちんとそのトラックの名称をフルスペックで入力している)。

あとは、GENREへの複数値の設定。これは最初はあまりこだわっていなかったのだが、いまは絶対必須だと思っている。ひとつの楽曲は、さまざまな側面を持っている。たとえば『展覧会の絵』の場合は、"Classical" であり "Orchestral" であり "Russian" である(ロシア音楽とフランス音楽は、ぼくのなかで独立したジャンルとして確立している(笑))。気分によって、さまざまな切り口で一覧したくなる。

日付も、DATEというタグだけでは限界を感じている。ぼくの場合は、これを録音日であると勝手に決めて、アルバムのリリース日や入手した日は別のタグをつけて管理するようになった。こうすることで、最近購入したアルバム順――新着順――で並べたりすることができる。とくに、日々増えつづけるCDを忘れないように(爆)するためには、新着順は、なくてはならないものになった。

あらかじめついていたタグデータは捨てて、自分のタグデータを登録する

これは、原本大切主義のぼくとしては、すこし勇気がいった(笑)。

実際は、CDをリッピングした場合とダウンロードした場合とで、多少態度がちがう。CDをリッピングした場合は、原本はCDにあるので、ハードディスク上のファイルのタグデータという面でのオリジナリティは、あまり気にしない。ハードディスクが吹っ飛んだときに、すべてリッピングし直すのは面倒なので、一般的な意味でのバックアップをとっているだけだ。ダウンロード音源の場合は、いつダウンロードできなくなるかわからないので、いちおう原本は別にマスターデータとしてとっておく。過去ダウンロードサービスで購入して(たいていはDRMつきだった)、もう二度と聴けなくなった音源もたくさんあって、苦い思いをしたことがあるからだ(それはいまの電子書籍にもおなじことが言える)。そしてふだん使うファイルは、CDからリッピングした場合と同様に扱う。

で、こうした音源ファイルには、リッピングソフトや販売元の好意で、あらかじめタグデータが付与されることが多い。これを、とても大切な原本データだと思い込んでしまう。しかしそれは誤解である(きっぱり)

おなじ『展覧会の絵』に対して、もとのCDによって、 "Tableaux d'une exposition" であったり "Pictures at an Exhibition" であったり "展覧会の絵" であったり、"組曲 ≪展覧会の絵≫" であったり――元のデータを作成した人物・団体の国籍・方針・気分によって言語・表記の揺れはさまざまだが、結局はおなじ曲を表現しているのである。ここは勇気をもって、自分で決めた表記に「上書き」して統一してしまう。"Pictures at an Exhibition" を "組曲 ≪展覧会の絵≫" に変えたからといって、その曲のタイトルが変わるわけでも、別の曲を示すことになるわけでもない。チェリビダッケが演奏してもヤンソンスが演奏しても、再発されてもリマスターされても、EMIから出てもブリリアントから出ても、『展覧会の絵』は『展覧会の絵』である。

『展覧会の絵』の場合は、原典となるピアノ版とオーケストラ版、 さらにオーケストラ版のなかでも編曲者によるちがい、という話がある。これらはぼくの場合は版(EDITION)で管理するようにしている。 Emerson, Lake & Palmer の演奏は、いまのところはまったく別の曲扱いにしている(笑)。

ちなみに、ぼく自身は、楽曲の名前については以前は英語・ドイツ語が混在していたところを、家族も使うことを考えて、あるときすべて日本語に統一した。それは最初はちょっと大変だったけれど、クラシック音楽の場合、演奏はたくさんあったとしても、曲はおなじというケースが多いので、入力済みのデータを参照して編集できる環境があれば、編集はどんどん楽になっていった。いまでは――幸か不幸か――クラシックでまったく新しい曲に出会うというケースはあまりないので、たいていは過去に入れたデータを貼りつけるだけで済んでいる。

人名

あと、個人的にひとふんばりしたのは、作曲者・演奏者名である。こうした人名は、姓だけであったり、名-姓であったり、姓-名であったり、もとのデータや言語によってまちまちだった。いろいろ考えて、これを基本的には “姓, 名” として統一した。たまたま日本語で一般的な並び順になるが、これはべつに日本語を意識したことではない。

ある人物を特定するのに、もっとも大切な情報は姓であり、名は姓が重複した場合(スカルラッティ親子とか(^^;)以外は、あまり必要がない。演奏者や作曲者を一覧で表示する場合も、並び順は姓で並べたほうがわかりやすい。つまり “姓, 名” で登録しておけば、そのまま並べればいいので簡単だ。また姓だけを取り出す際も、文字列の先頭からカンマまで取り出せばいいので、比較的簡単な処理で対応できる。並び順を決めておけば、これをあとで “名 姓” にするのも、 ”イニシャル. 姓” にすることもできる。実際、一時期はfoobar2000用のプラグインを作成して、そういう表示ができるようにしていたこともある(いまは自作ソフトにそういう機能を組み込んでいる)。

人名や団体名を統一することで、アバドの演奏は、とか、シカゴ交響楽団の演奏は、というように簡単に引き出せるようになった。

§

こまかい話も含め、いろいろと書いた。PCでオーディオする魅力は、高音質とか簡便とかいろいろ言われているが、個人的には、大量の音源をデータベース化し、自分の連想や興味の赴くままに、ジャンルを問わずさまざまな音楽を引き出せる、という点の魅力もきわめて大きいと感じている。

いっぽう、実際に何百枚か千枚かのCDをリッピングしようにも、そのタグづけや整理で挫折しそう、という話も聞く。オーディオとしてのPCはこんなに魅力的な道具なのに――それはとても残念な話だ。音楽という感性直結の情報の整理方法なんて、個人の嗜好や目的・価値観に左右される部分が大きく、すべてその通りというわけにはいかないだろうが、ここに書いたことがなにかの参考になれば、と思う。

 

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2013年2月23日 (土)

クラシック音楽と PCオーディオと タグ データ (その1)

TagEditむかし、楽曲(CD)を管理するデータベース・アプリケーションを作成したことがある。そのソフトはさまざまな課題を残したので結局は公開できずに終わったが、そこでは、きちんと正規化したデータベース・テーブル群を用意して、アルバムや作曲家、演奏者を手入力して管理するようにしていた。むかしの話である。

時代は変わって、楽曲に関する情報は、データベースで集中管理するのではなく、PC上の楽曲ファイル自身に、タグデータ (メタデータともいう) として持たせるようになった。そうして、自然にその “きちんとした” データベース・ソフトの出番はなくなり、楽曲のタグデータを参照するようになった。


さらに、これまでの数年で、このタグデータは、ぼくのなかでは「ちょっとした付加情報」から「きわめて大切なデータ」に変わった。

そのきっかけは、foobar2000がMedia Libraryで強力で高速な分類機能を提供してくれるようになったこと、おなじく強力な編集機能によって、複数の楽曲に対して統一的な値を設定しやすくなったこと、が大きかった。つまり、タグデータを用いて楽曲を集中管理できるようになったのだ。foobar2000だけでは不足している機能については、自分でもいくつかのツールを作成もした。また、これはfoobar2000が契機になっているかどうかはわからないのだが、趨勢としてひとつのタグに複数の値を設定できるようになったことも重要なポイントとなった。

そして、時をおなじくして大量の楽曲をPCに置いた結果、ディスク上のフォルダ分類だけではなかなか直感的には「目的の音楽」が見つけられなくなるに至って、 本格的にデータを整理しようと思い立った。

問題は、クラシック音楽である。一部のジャズやロックでもおなじような課題を抱えることがあるが、クラシック音楽には特有の課題がある。 たとえば、

  • ひとつの楽曲が、複数のトラックに分かれている(楽章別とか)
  • ひとつの演奏には作曲者と演奏者という、役割のちがう重要なキーパーソンがいる
  • さらにひとつの楽曲・ひとつの演奏(=ひとつのファイル)を特定できたとしても、そこは複数の演奏者が関わっている(指揮者、オーケストラ、独唱者...)
  • 楽曲名だけでは演奏/アルバムは特定できない(たとえばムソルグスキーの 『展覧会の絵』には、たくさんの演奏者による何枚ものアルバムがある)

こうした特性から、大量の音源を管理しようとしたら、旧来のアルバム(CD)という単位だけでの管理ではなくて、そもそもの考え方の見直しと、タグ データでの管理がどうしても必要になってきた。

アルバム(CD)という単位は希薄で良い

そう考えるに至った(笑)。

もちろんアルバム(CD)という単位は管理するには便利なまとまりであり、どうでも良いわけではない。とくに、ある目的でもって特集されたアルバム、たとえば演奏家や作曲家をキーとして集めた小品集とか、ライヴのように、制作者が一連の流れを意識して曲順が組んだアルバムなどは、アルバム単位で聴くことに意味がある。また、アルバムのジャケットは、後々までその演奏を認識する上で重要なアイコンとなる。ハードディスク上のフォルダ構成も、アルバム単位が容量として大きすぎず小さすぎず、やはり便利である。

しかし、最近のボックス・セットなどの場合、CD 1枚の容量に応じて1曲が分断されていたり、つづけて聴くことにあまり意味がなさそうな曲がつめこまれていたりする(それはそれで嬉しいのだが)。

そのときに大切なのは、CDというメディアの『チェリビダッケ/ミュンヘン・フィル フランス・ロシア音楽集 Disc 3』という情報ではなくて、「チェリビダッケとミュンヘン・フィルによるムソルグスキーの『展覧会の絵』を聴こう」と思う、ということだ。

その演奏が収録されたパッケージは、時代が変わり、リリース形態が変わると、アルバムという単位もまた簡単に変わってしまう。大切なのは、そこに収録されている演奏そのものである。

演奏を引き出す情報が大切

そうすると、ある演奏を引き出すためには、CD棚を順番に見ていくのとはちがい(それはそれで楽しいプロセスだが)、作曲者、演奏者、楽曲名、ジャンル、年代、そういった情報がきちんとタグづけされて、このタグ情報をもとに探せることが重要になる。とくに、演奏者のタグ(PERFORMER)には、複数の名前を登録できる必要がある。

たとえば、上の『展覧会の絵』の場合、聴きたくなる動機は、ムソルグスキーの『展覧会の絵』そのものを聴きたい場合もあれば、そうではなくて、チェリビダッケの指揮するなにかを聴きたい場合もある。その両方が大切な場合もある。あるいはたまたまミュンヘン・フィルのことを調べていて、ミュンヘン・フィルの演奏を聴きたくなる場合もある。

ここ数年使いつづけてきて、大切だと思う情報はだいたい決まってきた (以下、[] 内の英語は、FLACでのタグ(メタデータ)の名称)。

  • 検索するときに大切なタグ (ほぼ必須)
    • 作曲家 [COMPOSER]
    • 演奏家 [PERFORMER]
    • アルバム名 [ALBUM]
    • 楽曲名 [CONTENT GROUP]
      (...決して [TITLE]ではない)
    • ジャンル [GENRE]
      (...これも複数必要! )
  • 楽曲を管理するときに大切なタグ (あれば良い)
    検索に使用するタグに加えて、
    • レーベル [ORGANIZATION]
    • 録音日 [DATE]
    • リリース日 [RELEASETIME]
    • 入手した日 [PURCHASEDATE]/[ENCODINGTIME]等々...
    • 版 [EDITION]
    • 作品番号 [OPUS]
      (たまに、ある作曲家について作品番号順に並べたくなる(笑))

「その2」で、もうすこし詳しい話をしようと思うが、こうして自分で使用するタグとその意味を決めておくことがポイントになると思う。もっとも、一度決めた使い方も、さまざまな楽曲のデータを整理していくにつれて例外に出くわして、揺らいでしまうこともままあるのだが。

 

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2013年2月10日 (日)

TEACの DSD 再生可能な DAC, UD-501

UD501ひさしぶりにオーディオ機器に変化があった。 TEACのDAC (DAコンバータ)、 UD-501を購入したのだ。

これまで使用していたDACは、以前ご報告したとおり、英国CHORDのDAC64 mk2。気がつけば、導入からずいぶんと時間が経った。このDAC64は当初から192kHzのサンプルレートに対応しているなど、いまでも充分に通用するスペックを誇っているから、あまり古くなった気がしない。音も全面的に気に入っている。

なのに、新しいDACを導入した理由はふたつ――ひとつは、使い勝手をもうすこし改善したいと思っていたこと。そしてもうひとつは、最近流行りだした、ハードウェアでのDSD再生を試してみたかったのだ。


「使い勝手」の部分というのは、これも以前にも書いた、たとえばサンプルレートが切り替わったときのDAC64のポップノイズ。自作のPC再生環境では、周波数が切り替わったときに自動的にアンプをミュートする、などの工夫はしていたのだが、やはりそれも無理矢理感は否めない。

そしてDSD。ここ1,2年のDSDの思いがけない勃興は、本当に目覚ましい。ぼくもご多分に漏れず、この1年のあいだにDSDを88.2kHzのPCMに変換する形の再生環境を整えていた。音源の価格、容量、あるいは使い勝手の面で、今後DSDがメインストリームになっていくとは思えない部分もあるが、せっかく素晴らしいフォーマットなのだから、これを楽しまない手はない。

§

選んだのはTEACのUD-501だった。決め手は、2基のトロイダルトランスによる「しっかりとした電源」と「頑丈な筐体」であるということ。Goldmundの例を見るまでもなくオーディオ機器の真髄は、電源と制振――と外観――に決まっている(笑)。そして、日本メーカ製であること。価格。

日本メーカ製である点は、CHORDでの不満だった使い勝手の面での不満解消を期待してのことだった。それはおおむね期待どおりだった。DSDの再生時には、PCMからの切り替えかどうかに関係なく、ごく小さく「プツ」というノイズが聞こえる。気にしていれば聞こえるが、気にしていなければ聞こえない、という程度の小さなノイズだ。念のためTEACに問い合わせてみたところ、TEACでもその現象は確認しており、その上で「これがもう限界」とのことだった。それはそれで納得した。PCMでサンプルレートを変更しても、DSDに変更しても、さらにPCMに変更したとしても、その極小さな「プツ」以外は不快な音を出すこともなく、まったく安定している (再生はすべて、foobar2000と自作ソフトでASIO 2.1を使用)。これは立派なことだ。さすがである。

価格は…この時期に、デジタル機器、とくにDACを購入するというのは、むずかしい決断だ。これからしばらくは、時間がたつにつれ、より魅力的な製品、すぐれた性能の機器が登場してくるに違いない。実際、購入にあたっては、たとえば MYTEK DIGITAL のStereo192-DSD DACや、購入当時はまだ発売されていなかったもののLuxmanのDA-06、あるいはCHORDの製品群など、あれこれと悩んだ。もちろんそこには、本来DACの心臓部と言える、DACチップの構成もかかわってくる。結局このUD-501を選んだのは、上に書いたように、オーディオの基本と思っている電源と筐体がしっかりしていること、そしてなによりも、それほど深刻にならなくても買える――すくなくともスピーカーのB&W 802Dなどに比べれば――価格だったということも大きい。

§

じつはUD-501は、昨年の11月2日にはもうぼくのところに届いていた。11月上旬発売と言われていたから、いわゆる初期ロットなのだと思う。

A4サイズのそこそこ扱いやすい大きさと、デジタル機器としては異例のずっしりとした重量。太いケーブルを使っても、ケーブル負けすることがない(笑)。デザインは…「すばらしい」とは言わないが、悪くはない。パネルの質感は、カタログ写真よりも実物のほうが良い。ツマミも見た目はまずまず、ただし実際にさわってみた感触は、いかにも中空です、という軽さが感じられるのは残念。価格から考えると、これは致し方のないところなのだろう。電源のトグルスイッチは意外と感触が良くて気に入った。両サイドのパネルはアルミ製で、制振にひと役買っているのだと思うが、まるでラックマウント機器のパロディのように、ハンドルが前面に飛び出ているのは、どうも理解に苦しむ。

動作は、すでに書いたように、きわめて安定している。前面に有機ELディスプレイがあるので、どのモードで動作しているかひと目でわかる。本体やPCの設定をいじっていて、うっかりちがうモードで動作していた、なんていうこともない。PCMもDSDも簡単にフィルタの特性を変更することができ、さらにPCMはアップサンプリングも行える。遊べる要素には事欠かない。

Thumbnail-Abbado-Mozart肝心の音質は――繊細で透明感のある、高解像度の美しい音である。定位も明快だ。アバドが若いモーツァルト管弦楽団と演奏した、モーツァルトの交響曲集などを再生すると、その鮮明な音にハッとする。

使いはじめてしばらくは、詰まったような感じがしたものの、鳴らしつづけたことで、すっきりと抜けて感じられるようになった。また、最初は「詰まった感じ」を払拭したくてPCMをアップサンプリングして聴いていたが、いまは、すこし尖った感じを出したくて、アップサンプリングなしに設定している。

UD-501の音色は、DAC64で気に入っていた骨太で弾力感のある音色――一部ではそれは時代遅れとも言われている――とはちがうものだ。今回のUD-501の購入で、ひょっとしたらDAC64は引退かとも思っていたが、この音色が捨てられず、いまも現役でUD-501のとなりにいる。だが結局、ふだんはUD-501ばかり聴いている。休日の昼間、大音量で鳴らしても、2基のトロイダルトランスのおかげか音はがっしりとしており、低域には芯が感じられる。世界観のちがうDAC64と比較をしなければ、UD-501はほぼ不満のない音だ。これで実売8万円~9万円というのは、お買い得だと思う。

そしてDSDは、世間で言われている通り、PCMに比べると、音はよりしなやかになる。余韻やホールトーンがふわっと感じられるようになり、それは奥行き感にもつながる。もちろん解像度は落ちない。とても気持ちが良い。

残念ながら、去年の10月から、著作権法の改正によってSACDからのリッピングは、たとえそれが私的なものであったとしても、非常に厳しいものになってしまった。こうなると、こうしたPC+DACで高音質の音楽を楽しむための頼りは、もはやSACDというパッケージメディアではなく、ダウンロード販売ということになる。法の狙いとは逆のいささか本末転倒のような気もするが、法は法なのでいまは仕方がない。

ノルウェイの “2L” というレーベルでは、すばらしいことに、同一音源をテスト用にDSD, FLAC(PCM)などの各種フォーマットでダウンロードできるようにしてくれている (そしてもちろん、ダウンロード販売もしている)。オーディオの趣味用としてこうした活動は本当にありがたいが、音楽を聴く趣味として、もっとふつうに、簡単に、幅広く高音質の音楽を楽しめるようにならないものか、と思わずにいられない。

 

Annotations :
TEAC UD-501
Link : TEACのサイト
2L: the Nordic sound
Link : http://www.2l.no/

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