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2009年8月24日 (月)

サイモン・ラトルとBPOのブラームス、交響曲全集

Rattile-Brahms すでに国内盤が発売されているので入手されている方も多いと思うけれど、サイモン・ラトルとBPO(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)によるブラームスの交響曲全集が発売された。待望の、と言っていいと思う。全世界が待ち望んだ、という感じかも(笑)。

海外盤が豊富に流通するなか、付加価値を見出しにくい国内盤は、今回は特典として、全曲の演奏映像を収録した2枚組のDVDが付属するという、豪華仕様になっている。ぼくもこの「オマケ」にやられて、国内盤を購入した。ちなみに――これはPCでリッピングするぼくにはあまり魅力は感じられないのだが――CDはHQCD仕様となっている。


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CDで2回ほど全曲を聴いた。とは言っても、夏休みのシーズンだというのに仕事がやたらと忙しく、ほとんど休めないので、腰を落ち着けて聴いたというにはほど遠い状態になってしまった。思いあまってiPodに入れて――とも思ったけれど、BGMであればまだしも、交響曲を真剣に聴きたいときのiPodというのはさすがに気が引ける。それで、ようやく休めた先日の土曜日、子供たちとマクドナルドから帰ってきたあと、すこし時間を作って自分の部屋のオーディオで聴いた。

そうしたら、予想していたものとは大きくちがっていて驚いた。

2002年のVPO(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団)とのベートーヴェンでは、ラトルはベーレンライター版を用い、ピリオド奏法も取り入れ、溌剌系の演奏を聴かせていた。最近リリースされたベルリオーズの幻想交響曲も、そのまえのジルベスター・コンサートを収録したロシアもののアルバムでも、BPOの能力を生かした明晰に聴かせる演奏で、その明晰さがある種の軽さにもつながっていたと思う。それで今回のブラームスでも、ややテンポを早めにした、どちらかと言えば「軽め」の演奏なのだろうと漠然と思っていたのだが、実際に聴いてみるとこれがまったくちがっていた。

重厚なブラームスだった。テンポは悠然として、よどみがなく、それでいて迫力と牽引力、高揚感もある。各交響曲とも、終楽章に向けてしっかりと気持ちを連れて行ってくれる。緩んだようなところはまったくない。1970年代から90年代を髣髴とさせる「巨匠」の演奏である。ただすこし往年の演奏とちがっているのは、雄大でありながら、中身がぎゅっと凝縮された充実した響きになっているところで、このあたりはさすがベルリン・フィルとラトルだなと思う。

現在最高のオーケストラと指揮者が、満を持してリリースしたブラームスの交響曲全集なのだから、ある意味これは当然の感想なのかもしれないけれど、正直なところ、まさかこういうスタイルの演奏が――2009年の録音として――聴けるとは思っていなかった。ほんとうに驚いてしまった。

ちょっと気になるところもあった。ところどころ、ディナーミク(音の強弱)がすこしわざとらしく感じられるところがあった。この瞬間に、ふとわれに返ってしまった。成功していればスカッと決まったのかもしれないが、素人のぼくの印象だと、充分にオーケストラが制動しきれなくてバラけてしまったような感じがした。

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ブラームスの交響曲って、こういうものだったんだな――と思った。

十代後半にクラシックを聴きはじめるようになって以来、ぼくはブラームスの交響曲をとくに好きで聴いてきた。どこが好きだというのは難しいけれど、ベートーヴェンの古典派音楽の様式に、じわっと染み出てくるようなロマン派音楽の香りが感じられるところが好きなのだろう、という気がする。

ただ残念ながら、これという演奏にはなかなかめぐりあえない。

このブログの最初のころに、ヴァントとNDR(北ドイツ放送交響楽団)による80年代の録音を紹介した。この演奏がぼくの思っているブラームスにもっとも近い。

ほかにも、全集で言えば、バーンスタインやジュリーニ、そしてアバド――オーケストラはすべてVPO――の演奏をこれまでよく聴いてきた(そういえば先日、金聖響とオーケストラ・アンサンブル金沢によるブラームスのコンサートにも行った)。交響曲第4番には、カルロス・クライバーとVPOによる世界遺産というべき演奏があり、これは別格としても、ほかはどうしても重すぎたり遅すぎたり、あるいは逆に軽すぎたりして、どれもすばらしいが、もうあとほんのすこしのところでなにかが届かない。

結局――よく聴くかどうかとはべつに――自分のなかでスタンダードとして残っているのは、ヴァントとNDRによる80年代の演奏、ということになりそうだ。また、よく聴くという意味では、じつは最近はチェリビダッケとシュトゥットガルト放送交響楽団の演奏が気に入っている。これはぼくはスタンダードとは呼ばないものの、とても魅惑的な演奏だ。

ラトルとBPOによる今回の全集は、これまでぼくが聴いてきたブラームスのなかでも、もっとも重厚なものだと思う。ブラームスの交響曲は、こんなに巨大なものだったのか――そう思った。

これから、この演奏を気に入りつづけられるかどうか――というのは、まだしばらく時間がたってみないとわからない。ただ、すくなくともいまは、まだ何回でも聴いてみたい、と強く思っている。

ああ時間が...いよいよiPodに入れるしかないのかも。

 

 

Annotations :
ブラームス/交響曲全集 : Brahms/The Symphonies
Simon Rattle, Conductor
Berliner Philharmoniker
EMI Classics: TOCE-90097-99
Link : HMVジャパン

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コメント

ラトルですか。アッバードと同時にいっぱい集めたけど……まったく聞いてません。アッバードが予想に反して素晴らしかったんで(特にDVDのベートーベン全集)。そっちが忙しくて。

19世紀以前の音楽を聴くのに、演奏法の流行とか現代の演奏法も何もないと思います。現代性をうるさく言うなら武満(もう古い)とかリームとかカンチェリとかポップスとか聞くべきです。よって演奏法の流行云々は無視することにしています。昔には昔の今には今の真実がある、音楽にはいい音楽と悪い音楽の2種類しかないと言うわけでね。

で、ラトルのブラームスはまだ聞いてませんが、ヴァントよりはるかに重厚なb7らブラームスはいっぱいあります。テンシュテットにジュリーニにVPOのカラヤンやザンデルリンクにイッセルシュテットにそしてフルトヴェングラー御大(特に50年代のVPOやNDRSO)。こういうのの多くは古典的じゃなくてロマンティックですがね。

好みで言えばマルケヴィッチの明晰判明・突撃演奏がぴったり来ますけど、こないだひどく重厚なテンシュテットの1番を2つ(LPOにNDRSO)きいて、いたく感動しました。

ラトルもおいおい聞いていきたいと思っています。

投稿: gkrsnma | 2011年6月18日 (土) 14時27分

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