ドイツ・ハルモニア・ムンディの50周年記念 ボックスセット
破格のボックスセットをつぎつぎとリリースして世間をにぎわせ、その販売手法を認知させたのは、たぶんオランダの Brilliantレーベルが最初だったと思う。2002 年の春、ルドルフ・バルシャイ指揮ケルン放送交響楽団による『ショスタコーヴィチの交響曲全集』11枚組を3千円弱という価格で提供して、大いに話題になった。
これまでボックスセットといえば、多少古めになって話題性も少なくなってきた録音をまとめて、というかたちが一般的だったように思うが、このバルシャイによるショスタコーヴィチは、 1990 年代に入ってからの新しいデジタル録音で、演奏も高水準、ということで話題になった。そして、なんといっても『ショスタコーヴィチの交響曲全集』という企画の絶妙さ――だれしも興味は持ちつつも、サイフの優先度の関係でなかなか買えなかったものが、これなら買おうという気になる――が受けて人気のアイテムとなり、いまでは「廉価盤であるかどうか」という観点は抜きにして「バルシャイ盤」として一定のポジションで語られるようになった。
ぼくも当時、このバルシャイ盤を嬉々として購入したひとりだ。他にもカルミニョーラによるモーツァルトのヴァイオリン協奏曲全集、ブロムシュテットやサヴァリッシュのベートーヴェン交響曲全集、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲全集、ラヴェルの管弦楽曲全集など、数え上げればきりがないほど、このレーベルにはお世話になっている。
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その後各レーベルからさまざまなボックスセットが発売されるようになったが、ここにきて、意表を突いてドイツ・ハルモニア・ムンディ(DHM)から巨大なボックスセットが発売された。意表を突いたというのは、現在はソニーBMGの傘下にあるとはいえ――DHMがバロック音楽を中心とした地味ながら真面目な作品を着実にリリースしている中堅レーベルであり(ぼくもクイケン兄弟を中心としたディスクを何枚か持っている)、どうもこうしたボックスセットのような廉価販売という印象に結びつかなかったというところにある。
そしてだれもが瞠目したのは、その内容だった――じつに50枚組で5千円強! それも古い録音の寄せあつめのようなものではなく、1990 年代の比較的新しい録音を中心に、かつて単独でリリースされた内容の濃いアルバムが集められている。これはボックスセットといいながら、内容は独立した50枚のアルバムがまとめてそれぞれ百円強で買える、ということだ(正確にはバッハのロ短調ミサなど2枚組のものも含まれるけれど)。
限定盤ながらきわめて中身の濃い、この50周年記念ボックスの発売がアナウンスされたとき、その強烈なインパクトからさまざまな場所でちょっとした旋風が巻き起こったようだ。そのほとんどが、こうした貴重な録音が超廉価に販売されることに対する危機感の表明と、同時に一消費者としての「うれしい悲鳴」だった――そんなに格安で大量に買ってしまったら、1枚1枚を大切に聴くことができなくなるのではないか――それはぼくもまったく同感だった。
この50枚のなかには、すでにぼくが単品として購入したCDも含まれている。では、のこりのCDを、この単品で買ったCDのときとおなじくらい大切に聴くことができるだろうか――それはもちろん気持ちだけの問題だ。でもぼくも、インターネット上のおなじ意見の方々も、それは簡単なようでむずかしい問題だと充分にわかっている。一部には、そういう姿勢になりそうな自分が許せないとして、このボックスセットを「買わない!」宣言をされた方もおられた。その勇気と良識にはほんとうに敬服する――けれど、ぼくは買った(爆)。
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それが昨日、HMVから宅配便で届いた。昨日の今日の、というところだから当然すべてを聴いたというような状況ではない。というか、ほかにも届いた大量のセットCDもあって――長くなるのでその話はまたいずれ――ようやく1枚、最初の1枚を聴いたところだ。
ぼくはバロック音楽は聴くけれど、詳しくはない。さっき聴いたCDには、ドゥランテ (Durante)、アストルガ (Astorga)、ペルゴレージ (Pergolesi)の作品が収録されている。ペルゴレージはともかくとして、ドゥランテもアストルガも正直なところ名前すらはじめて聞く――こうした無名にちかい作曲家の作品を演奏することに力を注いでいるという、トーマス・ヘンゲルブロックとフライブルク・バロック管弦楽団の演奏は鮮明で、美しい。
これからしばらく時間をかけて、ひとつひとつをなるべくゆっきり聴いていきたいと思う。どういう音楽、どういう演奏と出会えるのか――ここに、あと49枚もCDがあるなんて、やっぱりちょっと信じられない(笑)。
フランスにルーツをおなじくする Harmonia Mundi, France (HMF)というレーベルがある。ルーツがおなじとはいっても、DHMとHMFは現在は別会社である。どちらもバロック、古楽の分野で素晴らしいCDをリリースしつづけている。
この記事を書いたときには、まだTower Records で注文ができたのだが、その後あっというまに受注停止となってしまった。なんだか申し訳ないけれど、ご容赦ください。
Rudolf Barshai, Conductor
WDR Sinfonieorchester
Brilliant Classics: BRL6324
本文中でご紹介したとおり、発売当時は3,000円以下という価格設定だったのだが、いまはマルチバイ価格で5,191円になっている。
Link : HMVジャパン
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