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2008年3月22日 (土)

モーツァルトの交響曲全集

Mozart-Symphony2 「全集」という言葉の響きは、とても充足した気持ちにさせてくれる。知りたい、聴きたいと思う対象について、全集を手に入れるということは、読んで字のごとくそのすべてを手に入れるということだ。完全無欠であり、完璧で、もうなにもこれ以上必要なものなどない――なんて言うと大げさだけれど、そういう豊穣な気持ちになる。

それは、分厚い技術書を買ったときの充足感とおなじ種類のものだ。本を買ったからといってその技術が身につくわけではない。でも、その本を買うことで――たとえ読まなかったとしても(笑)――なんとなく自分がその技術を征服したような気持ちになってしまう。それはまやかしの感情なのだけれど、職場の若い連中にはそういう自分への暗示も案外大切だと、すこしくらいは冗談だがまあまあ本気で言っている。それであらたな技術分野に対峙する気持ちが整うのであれば、それだけでも充分すばらしい効果だ。


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モーツァルトの交響曲全集を買った。選んだのは、ボリューム感たっぷりで格安のセットものを発売しつづけ、ぼくのような素人の音楽の購入スタイルを変えさせたと言っても過言ではないオランダの Brilliant レーベルによる 11枚組。ヤープ・テル・リンデン指揮による、アムステルダム・モーツァルト・アカデミーの演奏。聞いたことのない指揮者による、聞いたことのない古楽器オーケストラによる演奏(...)。

ぼくはモーツァルトの音楽がとても好きだが、最近はそう頻繁には聴かなくなった。モーツァルトの音楽のことについて書きはじめるとはなしが終わらなくなるのでここでは深入りはしないが、とても好きだといいつつ、たとえば一般に41番まであると言われる交響曲について、どれだけ聴いたことがあるのだろうと考えると、たぶんその半分にも満たない。

じゃあ、その残りを聴きたいのかと問われると、それはまあ聴いてみたいというか好奇心はあるのだけれど、ほかにも聴きたいものがありすぎるし、正直なところ学術的な観点も持ちあわせているわけではないので、わざわざ初期の交響曲群をお金をだして買おうという気にはなれない部分もある。

それが、こうしたバジェット価格の交響曲全集では可能になる。すべての交響曲が収録されていて、価格はだいたい5,200円。たった5,200円で、ひょっとしたら一生聴く機会のなかったかもしれない(?)、モーツァルトの全交響曲がいつでも好きなときに聴けるようになるのだ。

Mozart-Symphony3 さっそくいつものように PC に TTA形式でリッピングしてみると、全部で144トラックあった。さすがはモーツァルトの交響曲全集――ささやかな満足感をもってCDを棚に収納しようとモーツァルトのコーナーに目をやると、そこには驚くべきものがあった――なんとそこには、すでにべつのモーツァルトの交響曲全集があったのだ。チャールズ・マッケラス指揮のプラハ室内管弦楽団による演奏だった。何年かまえに購入したものの、どうもすっかり忘れていたらしい。ふだん、いいかげんに聴いているのがバレてしまうような話だ。

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テル・リンデン盤の演奏は、古楽器系ということで期待していたとおり、小気味よく颯爽としていてとても気持ちがいい。たとえばアーノンクールのように “やる気と個性” まるだし、というような演奏ではない。かといって、BGM的に美しいけれどなにもない、というような演奏でもない。BGM的というかロマンティック・コンサート的度合いでいえば、マッケラスの録音のほうがその趣がつよい。マッケラス盤は通奏低音にチェンバロを加え、全体に疾走感があってよいのだけれど、それが “流しているだけ” のようにも聴こえてしまう。対して、今回のテル・リンデンの演奏は、躍動感を持ちつつも落ちついた端正な演奏になっており、聴いていてとても気持ちがいい。

モーツァルトの交響曲全集は、第1番から第41番までが整然と並んでいるわけではなく、研究が進んだ結果、欠番したり、あるいはあらたに交響曲とみなされた曲が追加になったりしており、それはマッケラス盤もテル・リンデン盤も例外ではない。さらに、テル・リンデン番は、有名な第40番の交響曲について、初稿版と、その後モーツァルト自身によって改訂されたクラリネットつきの版が収録されている。今回のCDを買うまで、この交響曲にそういう版のちがいがあるとは知らなかった。

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全集を手にいれて、すべてを聴いたのかといえば、じつは――やっぱり――全部はまだ聴いていない。ただ、休日の朝、気の向くままにのんびりと聴いている。そういう聴きかたでいいのだろうと思っている。

 

 

Annotations :
モーツァルト/交響曲全集 :  Mozart: Symphonies 
Jaap ter Linden, Conductor
Mozart Akademie Amsterdam
Brilliant Classics: BRL92110 
Link : HMVジャパン

Sir Charles Mackerras, Conductor
Prague Chamber Orchestra
TELARC: KZ-80300
Link : HMVジャパン

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