プレトニョフのベートーヴェン、ピアノ協奏曲第5番《皇帝》
ミハイル・プレトニョフのベートーヴェンは、以前ピアノ協奏曲第2番と第4番のカップリングと、交響曲全集が発売されたときにとりあげた。そのピアノ協奏曲集はその後めでたく “日本レコード・アカデミー賞” も受賞して評価も定まってきた (交響曲全集のほうは、やっぱり肯定的な評価は少ないようだが...(笑))。
ピアノ協奏曲に関していえば、第1番から第4番までを聴いただけで充分満腹感があって、本来大トリともいえるこの第5番《皇帝》が発売されても、正直「もう聴かなくてもいいかな」というくらいの気持ちになっていた。そもそも楽曲が大きな規模のものなので、いつもの飛んだり跳ねたりする “プレトニョフ節” が炸裂するのだろう、ということは容易に想像がついた。
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でも、この第5番を何度か聴いているうちに、いままでの感想とはすこしちがって、これはほんとうに歌うピアノとオーケストラの伴奏という演奏だなあ、とつくづく感じさせられた。これがいわゆるロシア人に深く根ざす “歌” というものなのだろうか――なんて思ったりもする。プレトニョフのピアノが自由闊達に歌い、オーケストラは前面に出ず、その伴奏に徹している。
協奏曲はもちろん、ソリストが主役である。ただ、むかしはいざしらず、通常は漢字の表記のとおり「協奏」なのであって、ソリストと指揮者/オーケストラがある意味対等に協力し演奏する。ところがプレトニョフは、彼の個人オーケストラといわれるロシア・ナショナル管弦楽団を率い、指揮者には「自分のかわり」と明言して、クリスティアン・ガンシュに指揮を頼んでいる。ガンシュの本業は指揮者ではなく、発売元のレーベル DG (Deutsche Grammophon) のプロデューサだ。こうした今回の演奏スタイルは、最初に第1番&第3番が発売されたときから変わっておらず、だからこそプレトニョフは (言葉は悪いが) やりたい放題ができた。
それが、この第5番《皇帝》になって、とくに第2楽章がじっくりと歌われていて、それを聴いているうちに、舞台の歌手と伴奏オーケストラというような図式が脳裏に浮かんできた。スター級のピアニストは世に大勢いるが、ピアノが歌手に思えてくるような心象を想起したのははじめてだ。
まあ、第3楽章に入りまた活気づいてくると、力みすぎて苦笑させられるような場面もところどころある。そのあたりは相変わらずだけれど、このベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番《皇帝》は、“歌うピアノ” が印象的なCDだ。それはプレトニョフと彼のオーケストラ、そしてその意図を明確に理解し黒子に徹しているガンシュという三者だからこそできた演奏なのだろう、と思う。
Beethoven / Concerto for Piano and Orchestra No.5 in E flat major, Op.73 "Emperor"
Mikhail Pletnev, piano
Christian Gansh, conductor
Russian National Orchestra
DG 477 6417
Link : HMVジャパン
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