ハイティンク/シカゴ響のマーラー、交響曲第3番
一部で話題になっている、ベルナルト・ハイティンク指揮シカゴ交響楽団 (CSO) によるマーラー交響曲第3番。オーケストラ自身による自主制作盤で、あまり購入意欲をそそらないジャケット・デザインではあるけれど(笑)、とても評判がよいので、購入して聴いてみた。
ハイティンクは60年代から1988年まで、20年以上の長きにわたってオランダの名門、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の常任指揮者を務めていた。在任期間が長いことと、地元 Philips からたくさんの録音も出していることから、このコンセルトヘボウでの印象が強い。その後はヨーロッパのオペラハウスやオーケストラの首席指揮者を務めていたものの、活躍を耳にする機会はすくなかった。それが 2006 年になって、アメリカのシカゴ交響楽団に請われて首席指揮者に就任、こうして自主制作盤としてぼくらの耳に届けられることになった。
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ハイティンクといえば――これは世界共通見解だと思うが――どちらかといえば実直で堅実、職人気質の指揮者という印象だった。またそうした音楽と同様に、本人自身も写真によっては海坊主のような強面の形相で写っていることもあるけれど、DVD などで見ているかぎりでは、いたって温厚でシャイな音楽好きという風采だ。そのハイティンクがアメリカに渡り、シカゴ響を振る――このカップリングは、シカゴ響自身からの強い要請で実現したものだと聞く。
その結果はといえば、これはだれもが口をそろえて言うとおり、本当にすばらしいマーラーになった。かつてショルティによって鍛えられたシカゴ響は、まさにアメリカのオーケストラの体現ともいうべき「性能」を有しており、とくに金管の馬力というか炸裂する響きはアメリカらしい華やかさ、派手さに満ちている。むかし、ショルティが存命のころ、シカゴ響と来日した際にブルックナーの7番を聴いたことがあるが、咆哮する金管がある種のカタルシスとなって陶酔させられるものの、これは先入観のせいかもしれないが、すこしなにかちがうような印象が残ったものだった。
そのシカゴ響の馬力感は、このマーラーでも充分に健在だ。ところが、ギラつかないのである。オーケストラが充分に鳴っていながら、穏やかさや静けさも感じられ、音楽が自然に流れていく。かといって決して弛緩しているとか、もちろんそういうわけではない。ぎゅっと詰まった密度感もある。これは、ハイティンクのコントロールが行き届き、彼の持ち味がきちんと生かされているからなのだろうと思う。迫力だけで圧倒するのではなく、あくまでも明確で自然な流れで音楽を導いていく。
なお、この明晰で豊かなマーラーの印象には、その録音もひと役買っている。シカゴ交響楽団の自主レーベル "CSO-RESOUND" の音は、最近これほどバランスの整った録音はあっただろうか、と思うくらいにすばらしい。すべての楽器が適切な距離感と広がりを保ちつつ、明確に聴こえてくる。この録音が音楽の見通しのよさに貢献していることはまちがいない。
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ハイティンクは、最近、古巣であるコンセルトヘボウで、マーラーの交響曲第4番を指揮した。そのときの模様が、これもオーケストラの自主制作盤、"RCO Live" として発売されている。最終楽章の歌曲でソプラノを独唱しているのは、先日このブログでも、2006年ザルツブルグ音楽祭『フィガロの結婚』での活躍をとりあげた、クリスティーネ・シェーファー。
長くなるのでこのCDの詳細については書かないが、ほぼ同時期ともいえる録音だけに、今回のシカゴ響との演奏と比べて聴いてみると、アメリカとヨーロッパのオーケストラの音の特徴がわかって、おもしろい。シカゴ響もコンセルトヘボウ管もどちらも、その地の文化的背景を代表するに足る立派なオーケストラだ。
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正直なところ、書くのにそれなりの時間のかかる (笑) このブログで、ベルナルド・ハイティンクをとりあげる機会がこようとは自分でも思ってもいなかった。ハイティンクの振ったCDは何枚か持っているものの、上で触れたように音楽は実直で地味なのでそう頻繁には聴かないし、あまり書くこともなさそうな気がしていたからだ。
でも今回のシカゴ響との演奏を聴いて、持ち味のちがう両者の組み合わせ――穏やかながらもしっかりとした音楽性を持ったヨーロッパの職人指揮者と、アメリカの「吼える楽器」シカゴ響との組み合わせ――は、これからも相互に影響しあって、なにかすばらしい音楽をやってくれそうな期待感が出てきた。それを伝えるための自主レーベル "CSO-RESOUND" という、充分な器もある (ちょっと価格の高めな点が難だけれど)。
CSO-RESOUND レーベルでは、今回のマーラーの交響曲第3番のほかに、ブルックナーの交響曲第7番がすでに発売されている。まもなく、マーラーの交響曲第6番『悲劇的』も発売される。この自主制作盤の世界も、ますます素敵なことになってきている。
Mahler: Symphony No.3
Michelle DeYoung, Mezzo-Soprano
Bernard Haitink, Conductor
Chicago Symphony Orchestra
CSO-RESOUND CSOR 901 701
Link : HMVジャパン
Mahler: Symphony No.4 in G Major
Christine Schäfer, Soprano
Bernard Haitink, Conductor
Royal Concertgebouw Orchestra
RCO Live RCO 07003
Link : HMVジャパン
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