シャンティクリア・ミサ
雑誌『レコード芸術』で絶賛にちかい評価をされていたのと、録音も優秀だということで、興味があって買ってみた。副題には『そして地には平和を』とある。
シャンティクリアというのは、演奏団体の名前で、 Chanticleer とつづる。男性12名による声楽アンサンブル。いわゆるアカペラ・コーラスで、驚異的な技術で完璧なハーモニーを奏で、中世、ルネサンス時代の音楽から現代音楽まで幅広いレパートリーをこなす。1978年創設なので、まもなく30周年を迎えることになる。
このシャンティクリア・ミサは、帯の解説によると、16世紀ヴェネツィア楽派の初期バロック音楽から現代の作曲家まで、文化・音楽的背景を異にする5人の作曲家の融合、とある。つまり、全体がミサ曲としてまとめられているが、ひとつひとつの楽曲は作曲者も時代も大きく異なり、16世紀のガブリエリの作品のつぎには20世紀のクオモの作品が歌われる、といった具合だ。これらが違和感なくつながって、ひとつのミサ曲を形成している。
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一聴して、噂にたがわぬその純度の高い歌唱力にはやはり感心させられる。アカペラ (無伴奏) であるにもかかわらず、まるで楽器が鳴っているかのように錯覚することすらある。残響はやや多めに収録されていて、それがいっそう神秘的な雰囲気を醸し出している。
こうしたスタイルの音楽を耳にすると、ぼくの場合、ECMレーベルで活躍するヒリヤード・アンサンブル (Hilliard Ensemble) をどうしても連想してしまう。ヒリヤード・アンサンブルが4名から6名の構成であるのに対し、シャンティクリアは12名。規模はまったく異なるものの、ルネサンス時代から現代音楽までカバーし、鉄壁のハーモニーを誇るという点では、その世界観はよく似ている。
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こういう音楽を聴くシチュエーション、というのは人さまざまだろうが、わりと夜のおそい時間に、しかも疲れているときに、漠然とした “癒し” をもとめて聴く、というようなことも多いのだろうと思う。そういうとき、正直なところぼくは、よりストイックでより静謐なヒリヤード・アンサンブルのほうを選ぶだろうという気がする。ただヒリヤード・アンサンブルの音楽はその分聴き手に緊張感を求めるようなところがあり、それがきついと感じるときもある。
シャンティクリアの音楽は、たとえ短調の曲であったとしてもどこか明るく楽しい響きがあり、どこまでも繊細で優しく、聴き手をリラックスさせてくれる。
それはシャンティクリアが米国サンフランシスコを拠点としており、かのエンタテイメント大国で活躍しているということも関係があるのかもしれない。その意味では、純粋に学究的な中世、あるいは現代音楽よりも、さまざまなジャンルの音楽とのクロスオーバーのほうが、より楽しめるかもしれない。
AND ON EARTH, PEACE - A CHANTICLEER MASS
Warner Classics 8122.799844
Link : HMVジャパン
Officium - Hilliard Ensemble
ECM 445369
Link : HMVジャパン
ヒリヤード・アンサンブルははじめて、という方にはおすすめ。サックス奏者ヤン・ガルバレクとのコラボレーション・アルバム。いつかこのブログでもとりあげようと思ってはいるけれど、ぼくのつたない語彙ではどう表現したらいいのかわからない。とても特別なアルバム。
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