« ALR/Jordan の Note 7 | トップページ | アンドラーシュ・シフのベートーヴェン、ピアノソナタ »

2007年5月20日 (日)

ヴァントのブラームス、交響曲第3番

Wand-Brahms ギュンター・ヴァントのブラームス、交響曲全集が再発された。90年代のものではなく、80年代のリマスタ版だという。オケはどちらもNDR(北ドイツ放送交響楽団)。

80年代のヴァントのブラームスといえば――写真の右下に写っている、白いジャケットの廉価版には、かつてひとかたならぬお世話になった。そのころまだ20代の前半で、私生活がトラブっていた上に仕事では長期で出張に出ていることが多く、疲れてしまった深夜、交響曲第3番の第2楽章を、呆けながらひとりヘッドフォンでよく聴いた(わかってる、構図としてはかなり暗い)。


 

誰だってそうだと思うが、ブラームスの4つの交響曲のうち、どれがとり立てて好きだというのは難しい。でもなぜか、ぼくは以前からいちばん地味と言われる交響曲第3番が好きだった。はじめて耳にしたのは、まだ10代だったころ、テレビでサヴァリッシュがN響を振ったのを「目撃」したときだ。それは終楽章のしかも後半で、元気だったサヴァリッシュの指揮姿と、この交響曲第3番の疾走感がいっぺんに好きになった。

ベートーヴェン:交響曲第9番 サヴァリッシュといえば...別の話がはじまってしまう。フィラデルフィア管を引き連れて来日した際にはコンサートにも行った。右の写真にあるように、いかにも大学教授然とした風貌、語り口と、その印象を裏切らないスタジオレコーディング...でもライブでは全然ちがっていた! 闊達で楽しげで、見ている(聴いている)こちらまで楽しくなってくる。アンコールのスラヴ舞曲では、最後にくるっと半回転して音楽を振り上げた。2004年、N響の定期演奏会に現れた姿は、そうした日々を思うとあまりに弱々しく表情も虚ろに見え、思わず息を呑んだ。ここ数年というか十年ほど、忙しくて実演はもちろん、テレビでもラジオでもリアルタイムの演奏に触れる機会はまったくなかっただけに、まさに浦島太郎にでもなった気分だった。

 

話をもどそう。サヴァリッシュで「目撃」した第3交響曲終楽章の疾走感を求めて、たどりついたのがヴァントの83年の録音だった。ヴァントの名前もこのときにはじめて知り、その後、貧乏若者人生初のベートーヴェンの交響曲全集を購入した際にも、ぼくはヴァント/NDRによる録音を選んだ(正直、すこし小さくまとまり気味で期待はずれだった。この録音も同時に再発された...この話はまたいつか)。

それから、ぼくは第2楽章を「発見」して、愛聴した時期があった。この録音の木管楽器の響きは、ぼくがその後聴いたどんな録音に比べても憂いがあり、とても美しく響く。そして、感情を抑えつつも奔流する終楽章...リマスタ版を購入し、じっくりと聴きなおして、ぼくのヴァント像の原点というのは、ここにあるのだなと改めて思った。

 

90年代の録音の方は、残念ながら録音のせいか音楽全体が明瞭には響かない。購入した当時、期待して第2楽章に臨んだが、おだやかな雲から立ち上るように響くはずの木管楽器は、以前の録音のようには魅力的には聞こえなかった。終楽章も足取りが重く、前の録音やサヴァリッシュの演奏で感じられた、理性で抑えつつも感情が迸るような疾走感は影をひそめていた。

 

Annotations :
ヴァントのブラームス交響曲全集(80年代盤) :
Günter Wand, Conductor
North German Radio Symphony Orchestra
RCA 74321 89103 2
Link : HMVジャパン
ヴァントのブラームス交響曲全集(90年代盤) :
Günter Wand, Conductor
North German Radio Symphony Orchestra
RCA 09026 63348 2
Link : HMVジャパン

|

« ALR/Jordan の Note 7 | トップページ | アンドラーシュ・シフのベートーヴェン、ピアノソナタ »

音楽」カテゴリの記事

クラシック」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ヴァントのブラームス、交響曲第3番:

« ALR/Jordan の Note 7 | トップページ | アンドラーシュ・シフのベートーヴェン、ピアノソナタ »